こんにちは😊
大田区平和島にある歯医者
東京流通センター歯科クリニック ブログ担当です。
今回も歯周病と食生活についてお話します。
咀嚼と食品
1)咀嚼の定義
咀嚼とは、食物が口腔内に入った後、歯・顎・舌・筋などの働きによって食物が砕かれ(粉砕
)、すりつぶされ(臼磨)、睡液と混和されて、嚥下しやすい食塊になることをいいます。さら
に、ヒトは食物を咀嚼することによって「味わう」ことができます。
2)咀嚼の目的
咀嚼の目的は食物の消化・吸収を助け、生命維持に必要な栄養素を摂取することです。
しかし、かむ必要のない液状の経腸栄養剤の摂取だけでは健康を維持できません。
咀嚼とはヒトの心と体の健康維持に効果があり、生涯にわたって、健康で生きがいのある人間らしい生活を営むための基本となる重要な行為といえます。
3)咀嚼の仕組み
食物を咀嚼するとき、無意識のうちに下顎を上下させる開閉口運動を繰り返します。
このリズミカルな開閉口運動は、中枢神経を介する経路で引き起こされ、食事中に誤って舌を
かんでしまったときなどのように反射的に開口して咀嚼を中断する顎反射を備えています。
また、歯根膜や口腔粘膜などには感覚センサーが存在し、情報を脳に伝え、中枢神経系とネッ
トワークを形成し、咀嚼運動を調節しています。例えば、口の中に髪の毛が1本混入するだけ
で異物感を感じることができるのは、歯根膜の感覚センサーの働きによるものです。
4) 咀嚼機能の発達
乳児期の食物摂取は、本能的な哺乳運動(吸啜運動)によって行われます。
摂取する食品は液体であるため、いつも同じ運動パターンで摂取することができます。
しかし、咀嚼運動は哺乳運動とは異なり、食品の物理的性質によって咀嚼度合いが異なるため
、出生後に学習・トレーニングを受けて発達し、獲得されていきます。咀嚼の基本的機能が獲
得される時期は、哺乳期及び離乳期であり、特に「離乳を正しく進めること」は咀嚼機能の発
達のために重要です。
また、咀嚼機能の発達には中枢神経と歯根膜などの感覚センサーのネットワークの構築が重要
です。そのため、歯を喪失することは正常な咀嚼機能の発達を妨げることになります。
乳児期から学齢期では口腔の解剖学的な成長・発達、咀嚼機能の発達過程に応じた食品選択あ
るいは調理形態指導、および食品のソフト化による咀嚼能力の低下を防ぐ食材の選択が重要で
す。また、咀嚼による睡液の分泌促進、繊維性食物による機械的清掃効果が期待される多様な
食材の選択も考慮すべきです。
高齢期になり歯を喪失すると、一般に義歯が用いられるが、咬合力はおよそ1/4に低下し、食感
も悪くなります。義歯装着者の場合、義歯によって口腔の容積が狭められるなどの変化を伴う
ため、新たな咀嚼運動の学習が必要になります。義歯装着者の食生活指導では、「何をどのよ
うに食べられるようになりたいのか」といったことも目標に掲げ、咀嚼運動の学習を支援する
ことも重要です。
5) 咀嚼の効用
咀嚼には、さまざまな効用があることが知られています。
(1) 栄養素の吸収を助ける。 (2) 胃腸の働きを促進する。 (3) 食物本来の味がわかり、おいしく味わえる。 (4) 顎骨や咀嚼筋に刺激を与え、正常な成長・発育を促進させる。 幼児期から小児期によくかまないと、後続する永久歯の萌出スペースが十分確保できず、不正 咬合を引き起こし、う蝕・歯周病・顎関節症の発症リスクを高める。 (5) 睡液の分泌を促進する。
唾液はう蝕、歯周病、酸食症の発症リスクを低下させる。
(6) 肥満の予防
私たちは空腹感や満腹感を胃や腸ではなく間脳の視床下部にある空腹中枢と満腹中枢で感知し
ています。よく噛んで食べると満腹中枢が刺激され、食物の摂取量が少なくなり、さらにイン
スリンの分泌も低下することが報告されています。よく噛んで食べることは,摂食量の減少→
肥満予防→生活習慣病予防につながります。
(7) 脳の活性化
よく噛んで食べることは脳血流量を増加させ、脳を活性化します。車の運転中にチューインガ
ムを噛んで眠気を防止したり、スポーツ選手が集中力を高めるためにチューインガムを噛んで
いるのは、そのよい例です。さらに、この脳の活性化が学習効果を向上させることが幼稚園児
を対象とした研究で明らかにされました。また、認知症専門病院の入院患者の咀嚼能力は介護
保険施設等の入居者よりも低いとの報告もあり、咀嚼が認知力の低下を抑制する可能性を示唆
しています。
(8) 誤嚥の防止
高齢者は咀嚼機能や嚥下機能が低下しているため食物をのどに詰まらせたり、誤嚥を起こすこ
とが多く、十分に咀嚼することによって安全に飲み込むことができます。
(9) 発がん物質の働きを抑える
睡液中のラクトペルオキシダーゼが発がん物質の変異原性を低下させます。これは、ラクトペ
ルオキシダーゼが発がん物質により生成する活性酸素を消去することによります。
(10)その他
咀嚼機能を維持している高齢者は、そうでない高齢者と比較し、バランス機能(平衡機能)が
高いことが報告されています。バランス機能が低下すると転倒しやすくなり、転倒で骨折など
すると生活の中の自立度が低下し、そのまま寝たきりや要介護となる可能性が高くなります。
すなわち、よく咀嚼することは健康寿命の延伸や QOLを高めることにつながります。
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